3Dプリンターの仕組みとは?基本構造や出力までの流れを解説

ものづくりを効率化するために、3Dプリンターを導入する個人や企業が増えています。しかし「どのような仕組みで動いているのかわからない」「構造を知らないからトラブルに対応できない」と悩んでいる方も多いでしょう。

そこで、この記事では3Dプリンターの仕組みについて紹介します。基本構造や出力までの流れも解説するので、3Dプリンターの理解を深めたい方は最後までご覧ください。

3Dプリンターの仕組みを学ぶメリット

3Dプリンターの仕組みを理解することで、次のようなメリットがあります。

  • 設定値を最適化できる
  • 適切なメンテナンスを実施できる
  • トラブルに対応しやすくなる
  • 新しいアイデアにつながる
  • 用途に合った機種を見極められる

設定値を最適化できる

3Dプリンターを使いこなすには、温度やスピードなどの細かな設定が欠かせません。こうした設定は、単に数値を入力すればいいわけではなく、機種の特性や構造を理解したうえで調節する必要があります

たとえば、積層の仕組みを理解していれば、積層ピッチや印刷速度の設定が行いやすくなり、出力精度のばらつきを抑えられます。

適切なメンテナンスを実施できる

トラブルなく運用を続けるには、定期的にメンテナンスを実施することが重要です。しかし、手当たり次第に掃除をするだけでは、かえって不具合を引き起こすこともあります

各部品の役割や仕組みを正しく理解していれば、必要な箇所を的確に手入れすることが可能です。たとえば、エクストルーダーやノズルの構造を知っていれば、樹脂の詰まりが起きやすい箇所を把握し、効率的なメンテナンスを行えます。

トラブルに対応しやすくなる

印刷中に起こるトラブルの多くは、原因を正確に特定できればスムーズに対処できます。たとえば、造形物の位置が途中からずれてしまった場合、リミットスイッチやモーターの動作状況を確認する必要があります。

こうした原因を的確に見極めるには、各部品の仕組みを理解しておくことが欠かせません。また、構造を理解しておくと小さな不具合であればメーカーに頼らず自力で対処できるため、業務を中断するリスクも抑えられます。

新しいアイデアにつながる

3Dプリンターの仕組みを理解していると、単に造形するだけでなく、新たな発想にもつながります。ノズルの構造を理解していれば、出力幅や押し出し量を考慮した設計ができ、複雑な形状にも柔軟に対応することが可能です。

また、エクストルーダーやノズルの動作に詳しければ、素材の切り替えや混合出力といった応用的な造形手法にも取り組みやすくなります。

用途に合った機種を見極められる

造形方式・サイズ・精度など、機種によって仕様が大きく異なるため、目的に応じて適切なものを選ぶことが大切です。仕組みを理解していれば、自分の用途に必要なスペックを見極めやすくなり、不要な出費を避けられます

たとえば、細かい部品を高精度で出力したいのか、大きな造形物を一度に作りたいのかによって、適した造形方式やサイズは異なります。

3Dプリンターの仕組み

3Dプリンターには複数の造形方式があり、それぞれに特徴があります。

  • FDM方式
  • 光造形方式
  • インクジェット方式
  • バインダージェッティング方式
  • 粉末焼結積層造形方式

造形方式について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

関連記事:【試作開発に!】押さえておきたい!3Dプリンターの5つの造形方式と特徴

FDM方式

FDM方式とは「Fused Deposition Modeling(熱溶解積層法)」の略称で、現在広く普及している3Dプリンターの造形方式です。フィラメントと呼ばれる樹脂製の材料をヒーターで溶かし、ノズルから少しずつ押し出しながら積み重ねていくことで、立体的な形状を作り上げます。

構造が比較的シンプルで、本体価格や運用コストを抑えやすいため、個人から企業まで幅広く導入されています。ただし、積層跡が目立ちやすく、細部の表現や滑らかな表面仕上げには工夫が必要です。

光造形方式

光造形方式は、液体状の樹脂に紫外線やレーザーを照射し、光が当たった部分を硬化させて形を作る方式です。FDM方式に比べて高い精度が得られるため、繊細な表現が求められる模型や試作品の製作に適しています。

また、液体樹脂を硬化させて造形するので、層の積み重ねが目立ちにくく、滑らかな表面仕上げが必要な製品にも向いています。ただし、造形後には洗浄や二次硬化といった追加の工程が必要になり、作業に手間がかかる点には注意が必要です。

インクジェット方式

インクジェット方式は、液体の樹脂やワックスなどを微細な粒状で噴射し、1層ずつ積み重ねて造形する方法です。材料を吹き付けた直後に紫外線などで硬化させるため、高い精度と表面のなめらかさを両立できるのが特徴です。

色付きの材料を使えば、フルカラーの立体物も再現できるため、見た目を重視する展示模型や試作デザインなどに重宝されています。一方で、太陽光によって劣化しやすいというデメリットもあります。

バインダージェッティング方式

バインダージェッティング方式は、粉末状の材料に結合剤(バインダー)を噴射して固め、層を重ねていく造形方法です。材料には石膏・金属・砂などが使われることが多く、造形速度が速いというメリットがあります。

また、フルカラー出力にも対応できるため、建築模型やフィギュアの製作といった用途でも活用されています。ただし、造形直後は十分な強度が得られないため、補強を目的とした焼結や含浸といった後工程が必要です。

粉末焼結積層造形方式

粉末焼結積層造形方式は、粉末状の樹脂や金属を敷き詰め、その表面にレーザーを照射して焼き固める方式です。1層ごとに材料を敷き、設計データに基づいて特定の箇所にレーザーを照射することで、形状が作られていきます。

高密度かつ高強度の立体物を作れるため、試作にとどまらず、実用部品の生産にも活用されています。ただし、本体価格や運用コストが高額で、装置が大型であることから、導入のハードルは比較的高めです。

粉末焼結積層造形方式の特徴について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

関連記事:【SLS方式】粉末造形とは?ナイロン6で造形できるメリットは?

3Dプリンターの基本構造

3Dプリンターを使いこなすには、まず基本となる構造を押さえておくことが大切です。方式によって内部構造は異なりますが、ここでは幅広く使われているFDM方式をもとに、各パーツについて解説します。

  • フレーム|本体を支える
  • エクストルーダー|材料を押し出す
  • モーター|各軸を駆動する
  • ヒーター|ノズルやヒートベッドを加熱する
  • ノズル|加熱された材料を噴出する
  • ヒートベッド|造形物を定着させる
  • ファン|ノズルや積層部を冷やす
  • リミットスイッチ|各軸の原点を検出する
  • コントロール基盤|全動作を制御する
  • 操作パネル|操作や設定を行う

フレーム|本体を支える

3Dプリンターのフレームは、本体の構造を支える土台です。外観の印象を決めるだけでなく、造形中の安定性にも大きく影響します。

フレームが弱いと、印刷中に振動やズレが生じてしまい、精度の高い造形を行えません。特に、細かな形状や高さのあるモデルを作るときには、フレームの剛性が完成度を左右します。

エクストルーダー|材料を押し出す

エクストルーダーは、3Dプリンターで使う材料をノズルに向かって送り出す部品です。主にフィラメントと呼ばれる糸状の樹脂を、決まった量だけ安定して押し出すことで、造形に必要な材料がノズルから適切に吐出されます。

この部品に不具合があると、材料の詰まりや押し出し不足といったトラブルが生じ、仕上がりに影響が出てしまいます。

モーター|各軸を駆動する

モーターは、各部品を設計通りに動かすための動力源です。主にX軸(左右)・Y軸(前後)・Z軸(上下)にそれぞれ個別のモーターが搭載され、連携して動くことで複雑な形状も正確に再現できます。

さらに、エクストルーダーの内部にも材料を押し出す別のモーターが使われており、造形中は常に複数のモーターが同時に働いています。

ヒーター|ノズルやヒートベッドを加熱する

ヒーターは、材料や部品を加熱するための装置です。3Dプリンターでは主に2箇所で使われており、ノズル側ではフィラメントを加熱して溶かし、材料を押し出せる状態にします。

もう1つはヒートベッドに搭載されており、造形台を一定の温度で保つ役割を担っています。

ノズル|加熱された材料を噴出する

ノズルは、加熱された材料を細く押し出す部品です。フィラメントはエクストルーダーによってノズルへ送られ、ヒーターで十分に加熱された状態でノズルの先端から押し出されます。

ここで出力された材料が、プリンターの動きにあわせて少しずつ積み重なり、立体物として形になっていきます。

ヒートベッド|造形物を定着させる

ヒートベッドは、造形台を加熱する装置です。造形が始まると、材料は造形台の上に押し出され、その位置でしっかりと固定される必要があります。

しかし、温度が低いと材料が急激に冷えて縮み、反りや浮き上がりが発生します。そのため、安定した造形にはヒートベッドによる適切な温度管理が重要です。

ファン|ノズルや積層部を冷やす

ファンは冷却を担う部品で、3Dプリンターでは主に2つの目的で使われています。1つはノズル周辺を冷やすためのもので、ヒーターで加熱された部品が過剰に熱をもたないように温度を調節します。

もう1つは積層した材料がしっかり固まるように冷やすファンで、形が崩れたり歪んだりするのを防ぐために欠かせません。

リミットスイッチ|各軸の原点を検出する

リミットスイッチは、各軸の原点を検出するためのセンサーです。X軸・Y軸・Z軸それぞれに設置されており、ノズルや造形台を毎回決まった位置に戻す役割を担っています。

このスイッチが誤作動を起こしたり、正しく取り付けられていなかったりすると、初期位置がずれてしまい、造形全体が歪む恐れがあります。

コントロール基盤|全動作を制御する

コントロール基盤は、3Dプリンター全体の動きを指示・管理する部品です。モーターやエクストルーダー、ヒーターなどの各部品に命令を送り、設計データに基づいて正確に稼働させています。

造形速度やノズルの温度調節など、すべての処理がこの基盤を通して実行されます。

操作パネル|操作や設定を行う

操作パネルは、3Dプリンターの状態を確認したり、各種設定を変更したりするための装置です。印刷の開始や一時停止といった基本操作のほか、ノズルの温度設定や印刷ファイルの選択といった操作もここで行います。

従来はダイヤルやボタンで操作するタイプが主流でしたが、最近ではタッチパネル式のカラー画面を採用しているモデルも増えてきました。

3Dデータから出力までの流れ

3Dデータの読み込みから造形完了までの流れは、以下の通りです。

  • Gコードを読み込む
  • モーターが各軸を動かす
  • フィラメントを押し出す
  • 冷却しながら積層する

Gコードを読み込む

3Dプリンターで造形を始めるには、まず「Gコード」と呼ばれる命令データを読み込む必要があります。Gコードは、スライサーソフトと呼ばれる専用ソフトで作成され、3Dモデルのプリント方法を具体的に記述したものです

このデータをSDカードやUSB経由で本体に読み込むと、プリンターはGコードの内容を順番に処理し、動作準備に入ります。

モーターが各軸を動かす

Gコードの読み込み完了後、印刷開始の操作をすると、モーターが指示通りに動作を始めます。まずリミットスイッチを使い、正確な制御が行えるように原点を検出します。

原点が確定すると、X軸・Y軸・Z軸に取り付けられた各モーターが、設計データに沿って造形エリア内を移動し始める仕組みです。

フィラメントを押し出す

モーターによってノズルの位置が決まると、次はエクストルーダーがフィラメントを押し出す工程です。送り出されたフィラメントはヒーターで溶かされ、ノズルの先端から溶けた状態で吐出されます

このとき、ノズルが設計データに従って移動することで、図面に沿った形が少しずつ形成されていきます。

冷却しながら積層する

溶けたフィラメントがノズルから吐出されると、すぐに自然冷却が始まります。ただし、急激な冷却は材料の反りを引き起こすため、ヒートベッドの温度を調整しながら、ゆるやかに冷やすことが大切です。

熱で柔らかくなった樹脂を固めながら、1層ずつ順番に積み重ねることで、安定した立体形状が完成します

まとめ

この記事では、3Dプリンターの仕組みや基本構造、出力までの流れについて解説しました。FDM方式や光造形方式といった造形方式の違いを理解することで、目的に合った機種を選べるようになります。

また、各部品の役割を知っておくと、日々のメンテナンスや故障時の対応もスムーズに行えます。そのため、3Dプリンターを使いこなしたい方は、この記事を参考にしながら使用する機種の構造を改めて見直してみてください。

製造現場や開発部門で試作品を作る際には、FDM方式よりも粉末焼結積層造形方式を選ぶケースが多いです。もし、高強度な素材での試作をお考えの場合は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

関連記事:【SLS方式】粉末造形とは?ナイロン6で造形できるメリットは?

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