原理試作とは?実施するメリットや具体的な進め方、注意点を解説

開発後期での非効率な修正を避けるには、原理試作を通じて課題を特定しておくことが重要です。しかし「原理試作の効果的な進め方がわからない」「本当に原理試作が必要なのか判断できない」と悩んでいる方も多いでしょう。
そこで、この記事では原理試作について解説します。実施するメリットや具体的な進め方、注意点を紹介するので、製品開発に関わる方は最後までご覧ください。
原理試作とは

原理試作とは、製品開発の初期段階において、アイデアや構想が技術的に実現可能かどうかを検証するために行う試作です。完成品のような外観や細かな仕上げにはこだわらず、あくまで「その技術や仕組みが本当に動くのか」を確かめることに重点を置いています。
たとえば、エアコンの新しい構造を検討する場合、完成品のような表面処理や細部の仕上げは後回しにして、まずはその形状が狙った風量と風向きを実現できるかを確認します。
原理試作をするメリット

原理試作を実施することで、以下の3つの効果が期待できます。
- 製品の品質を高められる
- 開発コストを抑えられる
- 関係者への説得材料になる
製品の品質を高められる
頭の中でどれだけ緻密に構想を練っても、実際に形にしないと見えてこない課題は少なくありません。たとえば、設計通りに動作しなかったり、想定していた素材の強度が足りなかったりといった不具合は、試作段階で初めて明らかになるケースが多いでしょう。
こうした課題を早期に発見するために、原理試作では製品の基本的な仕組みや動作原理に焦点を当てて検証を行います。試作と改良を繰り返すことで、後工程での修正が減り、最終的に完成度の高い製品づくりにつながります。
開発コストを抑えられる
開発が進むほど、設計変更や仕様変更にかかるコストは増加します。量産段階に入ってから根本的な問題が発覚した場合、金型の作り直しや製造ラインの変更など、莫大な費用が必要になるでしょう。
一方で原理試作の段階であれば、比較的安価な材料と簡易的な製造方法で課題を特定し、解決策を検討できます。2016年に経済産業省が公開した資料によれば、日本企業は新製品の開発に平均23.8ヶ月かかっており、米国企業の11.1ヶ月に比べておよそ2倍の時間を要していました。
また、自社製品の開発リードタイムが10年前と比べてどう変化したかという質問に対し、61.5%の企業が「あまり変わらない」と回答しています。開発現場の課題を踏まえると、原理試作は今後のものづくりに欠かせない工程になっていくでしょう。
関係者への説得材料になる
製品開発には、社内外の多くの関係者が携わります。それぞれの立場が異なるため、物事の優先順位や判断基準もさまざまです。
特に、企画担当者・経営層・営業チームなどに対して新しいアイデアや仕様変更の必要性を伝える場面では、言葉だけでは納得を得にくいこともあるでしょう。しかし、原理試作を行うことで、口頭での説明だけでは伝わりにくい動作原理や構造の工夫も直感的に理解してもらえます。
さらに、試作を通じて課題が明らかになることで、今後の方向性について共通認識を持ち、意思決定のスピードも上がります。
原理試作をした方がいいケース

次のようなケースでは、原理試作の導入が効果的です。
- 新技術に挑戦している
- 具体的な仕様が固まっていない
- 社内稟議に通す必要がある
新技術に挑戦している
新技術には未知の要素が含まれており、理論通りにいかないことも多々あります。たとえば、データ上では安定するはずの部品が、組み立てた際に予期せぬ振動を起こすケースがあります。
原理試作によって「本当にその技術が思い描いた通りに動くか」「期待した性能を引き出せるか」といった点を検証できれば、開発の見通しを立てやすくなるでしょう。
具体的な仕様が固まっていない
製品開発の初期段階では、仕様の細部が未確定のまま進むことも少なくありません。こうした状況では、原理試作によって基本的な動作や構造を検証し、開発の方向性を明確にすることが重要です。
原理試作を通じて得られる動作の感触や検証データは、仕様を決めるうえでの貴重な判断材料となるでしょう。また、構造にいくつかの選択肢がある場合は、どれが最も適しているかを見極めるための比較検討が欠かせません。
原理試作なら短期間で複数のパターンを試し、それぞれの特性や課題を把握することも可能です。
社内稟議に通す必要がある
新たな製品を開発する際には、技術的な検証だけでなく、社内での承認プロセスをクリアする必要もあります。特に、予算や人員の確保を伴う場合は、稟議で納得感のある提案が求められます。
しかし、稟議書や企画書だけでは、製品の革新性や競争優位性を十分に伝えることは困難です。そうした場面では、稟議書に試作品の写真や検証結果を添えることで、アイデアが机上の空論でないことを示せます。
原理試作をしなくてもいいケース

次のようなケースでは、原理試作を省略できます。
- 既存製品を改良している
- シミュレーションで検証できる
- 仕様変更の余地がない
既存製品を改良している
すでに実績のある製品をベースに、小さな仕様変更や部分的な改良を加える場合には、必ずしも原理試作を行う必要はありません。部品の材質を変える、あるいは寸法を軽く調節する程度であれば、既存の設計や試験データが活用できるため、大きな問題に発展しにくいでしょう。
もちろん、変更内容によっては検証が必要な場合もあります。しかし、過去の製品で得られた知見がそのまま活かせる場合は、原理試作を省略しても問題ないケースが多いです。
シミュレーションで検証できる
近年は、設計段階でのシミュレーション技術が進化しており、試作を行わずとも性能や動作の妥当性を評価できる場面が増えています。たとえば、応力解析や流体解析を用いれば、実機を作らずに構造の強度や温度変化の影響を予測することが可能です。
設計が理論通りに機能するかを確かめるだけであれば、こうしたシミュレーションで十分な場合もあるでしょう。
仕様変更の余地がない
顧客から提示された内容に厳密に従う必要がある受託開発では、その仕様をもとにそのまま製品化へ進むこともあります。このようなケースでは、たとえ原理試作で課題が見つかっても対応策が取れないため、試作による検証の意味が薄れてしまいます。
設計の自由度がない状況では、原理試作よりも別の方法でリスクに備える方が効率的といえるでしょう。
原理試作の進め方

原理試作を進める際は、以下の手順を順番に押さえていきましょう。
- 検証テーマを明確にする
- 最低限の構成を洗い出す
- 全体構成を視覚化する
- 部品を調達して組み立てる
- 動作テストを実施する
検証テーマを明確にする
試作品を作る前に、まず検証したいテーマを具体的に設定しましょう。テーマが曖昧なままだと、工程が進むにつれて方向性を見失いやすくなり、効果的な検証につながりません。
たとえば、新しいセンサー技術を開発する場合は「センサーが動作するか」という漠然とした目標ではなく「温度変化に対して±1度以内の精度で検知できるか」といった具体的な数値目標を設定します。このように明確な基準を設けることで、検証の成功・失敗を客観的に判断しやすくなります。
最低限の構成を洗い出す
検証テーマが明確になったら、次に試作品に必要な最低限の構成要素を洗い出しましょう。この段階では、検証に必要な機能や部品だけに絞り込むことが大切です。
動作確認が目的であれば、外装や付属機能は省いて問題ありません。リソースを効率的に使い、目的に集中できるよう、構成要素をできる限りシンプルにしてみてください。
全体構成を視覚化する
必要な要素が洗い出せたら、それらをどのように組み合わせるか、全体の構成を視覚的に整理してみましょう。紙に簡単なスケッチを描いたり、CADソフトを使って図面を作成したりすることで、部品の配置や動作の流れを具体的に把握できます。
この時点で「部品同士が干渉する」「スペースが足りない」といった問題を解決しておくことで、後工程での修正作業を最小限に抑えられます。
部品を調達して組み立てる
全体構成が視覚化できたら、いよいよ必要な部品を調達し、実際の組み立て作業に入ります。原理試作の段階では、市販の部品や流用できる素材をうまく活用するのが効率的です。
すべてを一から製作しようとすると、手間や費用がかさむうえに、検証に進むまでの時間も延びてしまいます。
動作テストを実施する
組み立てが完了したら、実際に動かして検証を行いましょう。試作品が想定通りに動作するか、設計時に想定した条件を満たしているかを一つひとつ丁寧に確認していきます。
その際、感覚的な判断ではなく、具体的なデータや測定結果に基づいて評価することが重要です。目標を達成できなかった場合は、原因を洗い出し、工程をさかのぼって修正しながら再検証を繰り返してみてください。
原理試作をするときの注意点

原理試作を実施する際は、以下のポイントに注意しましょう。
- 検証テーマを1つに絞る
- 外観にこだわらない
- 目的に合った作り方を選ぶ
検証テーマを1つに絞る
「一度にできるだけ多くの情報を得たい」という気持ちから、あれもこれも検証したくなるかもしれません。しかし、検証テーマごとに必要な試作品や検証方法が異なるため、目的を広げすぎると十分な検証結果が得られなくなってしまいます。
そのため、本当に確かめたい技術的なポイントを明確にし、検証の優先度を整理したうえで原理試作に取り組みましょう。
外観にこだわらない
原理試作では、表面処理や精密な加工といった外観品質にこだわる必要はありません。部品の切断面が粗くても、接合部分にバリが残っていても、検証すべき機能や構造がきちんと確認できれば、それで十分です。
美しい外観を追求すると、本来の目的である技術の検証や課題の洗い出しに十分なリソースを割けなくなります。
目的に合った作り方を選ぶ
検証の目的によって、試作品に必要な精度や耐久性は大きく異なります。たとえば、シンプルな構造の動作を確かめるだけなら、アクリル板やABS板を手加工するだけで十分でしょう。
一方で、素材特有の変形や摩耗の影響まで確認したい場合には、できるだけ実際の使用条件に近づけた作り方が求められます。目的と手段がかみ合わないと、せっかく試作しても期待した成果が得られないので、検証内容に応じた最適な試作方法を見極めることが大切です。
原理試作に関するよくある質問

原理試作を検討している方は、以下のよくある質問も参考にしてみてください。
- 量産試作との違いは?
- どのくらいの期間が必要?
- 内製と外注、どちらを選ぶべき?
量産試作との違いは?
原理試作と量産試作は、どちらも製品化に向けた試作工程ですが、その目的や内容は大きく異なります。
原理試作では、製品の基本的な仕組みや動作の原理を確かめることに重点が置かれます。まだ仕様が固まりきっていない段階で、構想通りに動くか、技術的に成立するかといったポイントを検証するのが特徴です。
一方で、量産試作は製品の仕様がほぼ確定したあとに行われる工程です。ここでは、量産時と同様の条件で製造し、製品が安定して作れるかどうかを見極めます。
つまり、原理試作は「技術的に実現できるか」を試す工程であり、量産試作は「安定して大量に作れるか」を確かめる工程です。
どのくらいの期間が必要?
試作の進め方や検証したい内容によって、必要な期間にはばらつきがあります。たとえば、動作の確認だけが目的であれば、簡単な構造のモデルを数日〜1週間ほどで仕上げることが可能です。
これに対して、機構が複雑な試作品では設計や加工に時間がかかり、完成までに1ヶ月以上を要することもあります。
内製と外注、どちらを選ぶべき?
社内に必要な設備と技術力があれば、関係者とのやり取りもスムーズに進み、修正や再試作にも迅速に対応できます。また、進捗をリアルタイムで確認できるため、スピード感を重視する開発には内製が適しているでしょう。
一方、高度な加工技術が必要な場合や、社内リソースだけでは手が回らないときには、外注も有効な選択肢です。外部の専門業者であれば、加工精度や仕上がりの品質に優れており、複雑な仕様にも柔軟に対応できます。
たとえば、弊社ではナイロン注型・ウレタン注型・粉末造形といった加工技術を活用し、複雑な形状や高い寸法精度が求められる試作品にも対応しています。プラスチックの機械加工や治具製作にも対応しているため、社内設備で対応が難しい場合は、ぜひ弊社の特殊技術を紹介した記事もあわせてご覧ください。
まとめ
この記事では、原理試作のメリットや具体的な進め方、注意点について解説しました。原理試作を行うことで、製品の品質を高めたり、開発コストを抑えたりすることが可能です。
また、社内の稟議を通したり、関係者の理解を得たりするための説得材料にもなります。そのため、新技術に挑戦している方や仕様が固まっていない方は、原理試作の導入を検討してみてください。
もし「社内にノウハウがない」「技術的な課題が多い」といった理由で原理試作が実施できない場合は、外注するのも効果的です。経験豊富な専門業者に依頼することで、高品質な試作品を短期間で完成させられます。
弊社ではナイロン注型や粉末造形といった加工技術を活用し、高強度・高耐熱の試作品を製造しています。オンラインでデータ共有をしながらの打ち合わせも可能ですので、原理試作でお困りの方はお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。